1 概要
M54(NGC6715)は、いて座の方向、約87,000光年という途方もない彼方に位置する、極めて濃密でミステリアスな球状星団です。一見、天の川銀河(私たちの銀河系)に属する通常の球状星団のように見えますが、近年の研究により、天の川銀河の伴銀河である「いて座矮小楕円銀河(SagDEG)」の中心核、あるいはそこに捕らえられた星団であることが判明しました。つまり、私たちはこの天体を通して「銀河系の外にある、異世界の星の集まり」を目撃していることになります。その特異な出自にふさわしく、中心部が異常なほど激しく密集し、鋭く強い輝きを放っているのが最大の特徴です。
| 項目 | M054 |
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| 別名 | NGC6715 |
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| 分類 | 球状星団 |
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| 星座 | いて (Sgr) |
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| 等級 | 7.6 |
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| 視直径 | 12' |
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| 距離(光年) | 87000 |
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| 赤経 / 赤緯 | 18h 55.1m / -30° 29’ |
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2 位置と探しかた
M54は、いて座の有名な「南斗六星」を目印に探します。南斗六星のひしゃく(器)の底にあたる3等星「アスケラ(\zeta星)」から、南西(右下)へ約1.5度ほど進んだ微星のなかに見つかります。夏の南の低空に位置するため、南の地平線が開けたロケーションを選ぶことが、この遥かなる異世界の星団を捉えるための第一歩となります。
3 シーズンと撮影好機
撮影に適した時期や時間帯を調べるシュミレーターです。天体が最も高く昇る南中時刻をはじめ、夜の暗さ(天文薄明)、撮影に適した高度、月明かりの影響(月齢・月の出入)を自動算出しています。遠征計画の参考にしてください。
M54は、夏から秋にかけてが最高の撮影シーズンとなります。南の低空をかすめる天体であるため、大気による減光やシーイングの影響を最小限に抑えるには、このシミュレーションで最も高度が確保できる南中前後のわずかな黄金時間を狙い撃ちする必要があります。南の地平線付近まで遮るものがなく、クリアに晴れ渡る遠征地を選び、月明かりのない新月期を厳選して撮影計画を立ててください。
4 天体の特徴と見え方
M54は総合光度が約7.6等と比較的明るいものの、非常に小ぶりで凝縮されているため、眼視での星の分解は極めて難易度が高い「大口径・高倍率向け」の天体です。
眼視観測においては、小型〜中型望遠鏡では星の集まりというよりも「中心が異様に鋭く明るい、まるでコマ(彗星の頭部)のような円盤状の光芒」に見えます。驚異的な距離にあるため星々の並びが非常にタイトで、口径28cmクラスの大口径望遠鏡を投入し、シーイング(大気の安定度)が良い夜に高倍率まで攻め込んで、ようやく周辺部の星々がチカチカとわずかに分離し始めるかどうか、という強敵です。
5 天体撮影・画像処理のノウ消
写真向けの対象としては、その「小ささと圧倒的な中心部の輝度」をどうコントロールするかが、撮影者の腕の見せ所となります。M54単体をクローズアップし、密集した星々の表情を描き出すには、焦点距離1500mm〜2000mmオーバーの超長焦点(シュミットカセグレンやリッチー・クレチアン望遠鏡)による撮影がベストで、強烈なコアの表情を緻密に表現できます。また、あえて500mm前後の望遠を使用し、周囲の賑やかな「天の川の微星の海」の中に、ポツンと異彩を放つ高密度なM54を配する構図も、その圧倒的な遠日感を際立たせる見事なアプローチです。
M54の画像処理で最大の難所は、あまりの密集度ゆえに中心部が簡単に「白飛び(飽和)」してしまう点です。多段階露出(HDR処理)を取り入れ、中心部の凄まじい高輝度な輝きを残しつつ、周辺に向かってサラサラと解けていく無数の微星のグラデーションを滑らかに表現するのがポイントです。背景の南の低空特有のカブリ(光害や大気光)を丁寧なフラット処理によって極限まで滑らかに補正し、密集した星々が放つ「密集した真珠の粉のような、金属的で硬質な luster(光沢)」をシャープに引き出すことで、異銀河由来の天体らしい、どこか冷徹で神秘的な立体感をあぶり出すことができます。画面全体に吸い込まれるような抜群の透明感と、Glossy(艶)で奥行きのある仕上がりを目指してください。
撮影のアドバイスとして、いて座のこのエリアには、M54とほぼ同じ視野(数度圏内)に、M69やM70といった、同じく小ぶりで密集した球状星団が寄り添うように集まっています。これらは天の川銀河のバルジ(中心核)近くにある星団たちです。「銀河系の内側にある星団(M69・M70)」と、「銀河系の外からやってきた星団(M54)」の姿を写し比べ、宇宙の階層の深さに思いを馳せるのも、いて座の夜の深い醍醐味です。