1 概要
へびつかい座の足元に広がる、天の川の主脈をも飲み込むほど巨大で圧倒的なスケールを誇る超大型の散光星雲です。
星雲の中心には、へびつかい座の3等星ゼータ・オフィウキが孤高に輝いています。この星は太陽の約20倍の質量を持つ超巨星であり、かつて連星を組んでいた相方の超新星爆発によって宇宙空間に弾き飛ばされた「暴走星(ランナウェイ・スター)」として非常に有名です。Sh2-27は、この荒ぶる巨星が周囲に激しい恒星風を吹き付け、凄まじい紫外線によって空間全体の水素ガスを一網打尽に励起・発光させている、いわば単一の星によって支配された壮大な光の領域です。
| 項目 | Sh2-027 |
|---|
| 別名 | |
|---|
| 分類 | 散光星雲 |
|---|
| 星座 | へびつかい (Oph) |
|---|
| 等級 | 3 |
|---|
| 視直径 | 600' |
|---|
| 距離(光年) | 500 |
|---|
| 赤経 / 赤緯 | 16h 31m / -10° 22’ |
|---|
2 位置と探しかた
さそり座のアンタレスから、へびつかい座の胴体へと向かって北上したあたり、天の川の西側の境界付近に位置しています。
中心星のゼータ星自体は3等星の明るさがあるため、肉眼でも位置を特定するのは非常に容易です。しかし、星雲自体の広がりは視直径で約10度(満月20個分)という規格外のサイズを誇るため、ファインダーを覗いて探す天体ではなく、夜空のその区画全体をカメラの広角レンズで丸ごと切り取る天体となります。
3 シーズンとアドバイス
見頃は、6月から7月頃。南中高度は比較的良好に確保できますが、星雲自体の表面輝度が極めて低いため、少しでも露出が不足すると淡いガスが周辺ノイズに埋もれ、ただのザラついた背景になってしまいます。F値の明るいレンズを開放付近から少し絞り、ナローバンドフィルター(Hα)を併用して一晩中じっくりと総露出時間を重ねてあげることで、眠っていたガスの『もくもくとした質量感』が艶やかにあぶり出され、他の追随を許さない圧倒的なスケール感を持った芸術的な作品へと昇華させることができます。
4 観測の難易度
全光度は見積もり不可能に近いほど巨大で、表面輝度は極限まで低いため、眼視での観測は不可能とされている「完全な写真向け・超広角レンズ推奨」の天体です。
眼視での見え方:
光害のない最高の夜空で大口径望遠鏡を使用しても、視野をはるかに超えて星雲が広がっていること、そして表面輝度が淡すぎることから、眼視でその境界やガスの存在を認識することは不可能です。ナローバンドフィルターを用いても眼視での捕獲は絶望的であり、カメラのセンサーに長時間の露出をかけて初めて、夜空に眠る巨大な赤い怪物の全貌をあぶり出すことができます。
5 天体撮影・画像処理のポイント
写真向けの対象としては、単一の輝星から同心円状に広がるガスのグラデーションと、周囲を取り巻く暗黒星雲の複雑なうねりの対比が素晴らしく、超広角撮影やモザイク合成の醍醐味が詰まった、玄人好みのマスターピースです。
王道の構図:
135mmから200mm前後の望遠レンズでは、星雲の全貌を収めきるのが難しく、中心のコア部分を切り取るクローズアップとなります。この天体の真の壮大さを表現するなら、50mmから85mm前後の標準・中望遠レンズ、あるいはそれ以上の焦点距離でのマルチパネル・モザイク撮影を敢行し、南側にある「アンタレス周辺のカラフルタウン(IC4604)」や、北側にうねる暗黒星雲の系譜までを一画面にすべて収める超広視野構図こそが、この天体の至高の表現とされています。
Glossy(艶)な画像処理の極意:
Sh2-27の画像処理において最もシビアなのは、中心のゼータ星による強烈なハロの処理と、背景に広がるあまりにも淡いガスの階調の引き出し方です。
画像処理の際は、画面全体を覆うような淡いHαのシグナルを丁寧に救い出しつつ、前景にある膨大な星々の輝度を縮小処理で大幅にコントロールするのがポイントです。
南天の広大な領域を写すため、大気光や人工光害による複雑なカブリが画面を歪ませますが、これを完璧なフラット処理で取り除くことで、赤く染まった宇宙のベールが放つ極上のベルベットのような艶やかなクラスター(光沢)が浮かび上がります。中心星から外縁へと向かって滑らかに減光していく発光ガスの立体感を表現することで、宇宙空間を波及していくエネルギーの息吹をそのまま写真に焼き付けることができます。